参考資料
刊行にあたって
伊藤 隆(東京大学名誉教授・政策研究大学院大学名誉教授)
東大法学部政治学科の教授であった矢部貞治は、昭和十年代、日本の危機的状況のなか、その突破を目指す政策研究団体――昭和研究会、国策研究会、海軍省調査課関係の政治懇談会等々のリーダー的役割を果たし、また近衛文麿のアドヴァイザー的地位にもあった。彼はそこで手にした文書を丹念に保存した。戦後、東大教授を辞任した後も、憲法調査会、公安審査委員会、拓殖大学総長等々多くの職に就いて活躍し、中曽根康弘とも深い関わりを持った。本文書群は、戦前戦後を通じ、彼が遺した厖大な原資料で構成されている。
彼は詳細な日記をのこし、それらの大半は既に読売新聞社から公刊されている。この日記と本文書群を照らし合わせて検討する事によって、昭和戦前・戦後期の政治・政策をめぐる、政治家・官僚・軍人・学者・ジャーナリストの姿とその動きを立体的に捉える事が可能になろう。また、彼と関係の深かった人物――例えば海軍省調査課・海軍大学校関係では高木惣吉の関係文書も公刊されており、国会図書館憲政資料室にも多くの関係者の文書が収蔵されている。それらを併せて検討することによって、より深い分析が可能になるであろう。
「オンライン版 矢部貞治関係文書」は、遺族から衆議院憲政記念館に寄託されたもののうち、日記を除くかなりの部分を筆者の勤務していた政策研究大学院大学に移譲、後に遺族から寄贈を受けた資料群を刊行したものである。憲政記念館にも日記と文書類が残されていたが、それらもこの度「オンライン版 矢部貞治関係文書 補遺」として追加されることとなった。矢部の旧蔵資料を横断的に利用できるようになったことで、より一層の活用を期待したい。