監修のことば

 地方自治総合研究所は、1974年に設立された。研究分野は阿利莫二(法政大教授)・加藤芳太郎(中央大学教授)・佐藤竺(成蹊大学教授)・加藤一明(関西学院大学教授)を研究リーダーとして息の長い研究プロジェクトを打ち立ててきた。息の長い研究は研究所設立時から今日まで続いている地方財政制度、「全国首長名簿」、研究成果を世に問うのに36年の年月を費やした地方自治法コンメンタール研究などがある。地方自治法コンメンタールは、逐条に明治市制町村制から制定・改正の経緯を追い、それが当時どのように論じられていたかを論文で精査して記述して行く作業が中心であった。戦後自治法の制定・改正については、旧内務省官僚であった方々からのヒアリングを繰り返しその要諦を押さえていくやり方も取った。 こうした研究スタイルは他の研究テーマにも多用され、その都度ヒアリング結果が蓄積されていった。それらの多くは「研究所部内資料」として白表紙で今日まで保管されてきた。
 また、研究リーダーの先生たちは社会の動きを論ずるだけでなく、それをデータとして明らかにしていくことを推奨された。その典型が「全国首長名簿」であり、「全国福祉地図」であった。「全国首長名簿」は地方選挙の実像を明らかにすることを目標にしてきたが、当初は各地で隆盛を誇った「革新自治体」の全国的状況の把握が目的であった。各政党の推薦支持データを備えた首長名簿は類を見ない。「全国福祉地図」は、今日の少子・高齢型社会の到来を見越して社会福祉のあり方をめぐる議論を展開する資料を共通のものにしようと企画された。都道府県別に保育施設・児童福祉施設・老人福祉施設などのデータを収録、図とマッピングで表現した。
 このように我が研究所では、特定のケース・スタディよりも全国的な動向に照準を当て、何よりもデータを重視した研究作業を積み上げてきた。その過程で生みだされた資料が今日まで陽の目を見ずに資料室の奥に保管されてきた。また、研究所の動き、その時々の研究論考は月刊誌「自治総研」で紹介しているが、その配布数はわずかであり多くの方に不便をおかけしてきた。また年度ごとに設置される各研究会の成果も研究所資料としてまとめたがその発行数もわずかであり、特段の宣伝もしなかったので人々の目に触れる機会は少なかった。この研究所資料は今日までに123冊出されている。
 このたび、これらの資料と論考を丸善雄松堂が電子化して一般に販売される運びとなった。地方自治研究の一歩前進に寄与することを念願して、広く利用されることを期待したい。

公益財団法人地方自治総合研究所所長 辻山幸宣