解題 推定執筆時期は昭和21年2月~3月(山内祥史「解題」(『全集第八巻』90・8)参照)。疎開先の津軽の郷里、金木町で執筆された。それまでの久楽堂のものとは異なる、無標記の粗悪な原稿用紙が用いられている。
参考までに解釈に関わる主な抹消跡を掲出しておく。
ノンブル3 L2 〔現代。冬。〕をさらに〔終戦後、〔五箇月頃。〕約半箇年。〕
ノンブル99 L9〔あたしは、もうすぐ、あの世 に行きさうな気がする。〕
ノンブル111 L9〔みんなで病気をしないやうに気をつけて、疲れたら眠つて、〕
初出誌の本文と比較してみると、冒頭の数枝の台詞の「日本の国の隅から隅まで占領されて、あたしたちは、ひとり残らず捕虜なのに、」(ノンブル5 L2)という表現が削除されている。編集者の自主規制か、占領軍の検閲の指示によって、ゲラの段階で削除されたものと思われる。(安藤宏)
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