◆書誌解題◆
11 斜陽第1冊第2冊第3冊第4冊
書誌情報
【原稿】
縦書200字詰 B5判 無標記 全521枚ただし、3枚は白紙
和綴4冊 題箋「斜陽(一)(二)(三)(四)/太宰治自筆稿本/ドナルド・キーン題」
第1冊 ノンブルなし~160(一・二章)
第2冊 ノンブル3~142(三・四章、冒頭2枚欠)
第3冊 ノンブル3~160(五・六章、冒頭2枚欠)
第4冊 ノンブル3~62(七・八章、冒頭2枚欠)

【草稿】
縦書200字詰 B5判 無標記 全42枚  
ただし「戦争中に不可能の事を強いられ~」の一節に始まる構想メモのみ、B4判400字詰原稿用紙(無標記)を半裁にしたものの右側が使用されている。

【初出】
「新潮」44巻7号(昭和22年7月1日)2-24頁(「一」「二」)、44巻8号(同8月1日)44-63頁(「三」「四」)、44巻9号(同9月1日)55-63頁(「五」「六」)、44巻10号(同10月1日)41-63頁(「七」「八」)  (太宰治文庫所蔵)
解題
【原稿】
 昭和22年2月26日、静岡県田方郡内浦村の三津の安田屋旅館にて起筆、3月6日に一章、二章の80枚を書き上げ、残りの6つの章は4月から6月末にかけ、三鷹の仕事部屋で執筆された(山内祥史「解題」(『全集第九巻』90・10)参照)。
 本文のペン書き、割り付け以外に、青ペンと黒ペンによって、内容に関わる訂正のなされている箇所がある。
 参考までに解釈に関わる主な抹消跡を掲出しておく。
第1冊
ノンブル41 L6〔震へて〕
ノンブル67 L4〔思ひのたけ〕
ノンブル117 L4〔暗い気持で〕
ノンブル120 L5〔岩波文庫〕
ノンブル154 L4〔大山〕
第2冊
ノンブル8 L5〔殺し〕
ノンブル13 L10〔ひとつき〕
ノンブル31  L3〔ヒユ?マニテイ? □□だ。〕
ノンブル42 L1〔ジリヒン が、ヤケを起して、神だのみ。〕
ノンブル43 L2〔好色〕〔好色〕
ノンブル68 L4〔落ちついた〕
ノンブル79 L10〔つまらない〕
ノンブル86 L1〔意識〕
ノンブル91 L5〔美しさ〕
ノンブル97 L8〔〔同じ芸術院〕和田の叔父さまと謡曲のお天狗仲間の
ノンブル105 L1〔はつとしました。〕
ノンブル130 L10〔ほんものの不良らしく、〕
ノンブル131 L1〔このごろ〕〔殺してもあきたらぬと〕 L6〔だけのものになるんです。〕
ノンブル135 L5〔狂ひたい。〕 L6〔愚かな女、それにちがひ無いでせうが、〕
第3冊
ノンブル3 L5〔あの男の
ノンブル14 L9〔思ひがかなふ〔やう〕のだ。〕
ノンブル28 L9〔見た事も無い〕
ノンブル59 L5〔夕刻、〕 L7〔直治が朝から夜眠るまで一滴のお酒も飲まなかつたのは、この一日だけのやうであつた。〕
ノンブル66 L3〔職業婦人〕
ノンブル89 L10〔本当の〕
ノンブル106 L7〔いのちをかけた
ノンブル107 L9〔愛する、〕 L10〔愛〕
ノンブル109 L5〔南〕
ノンブル110 L7〔吉祥寺の〕
ノンブル143 L10〔花よりも枝がいい。」〕
ノンブル148 L4〔ツルゲーネフ〕
ノンブル150 L8〔ひと〕
第4冊
ノンブル9 L1〔思想家でも〕
ノンブル12 L8〔けがされ、〕 L9〔光栄は引きずりおろされ、〕
ノンブル20 L8〔こんなていたらくで、〕
ノンブル32 L7〔さうしてその水色を背景にして〕
ノンブル45 L2〔キヌ〕
ノンブル54 L7〔にそむいて、〕

 初出誌は、連載第1回分に、句読点等、表記に関する若干の書き入れがある。

【草稿】
 美知子夫人によって保管されていたもので、平成10年10月に公開され、『人間失格』『グッド・バイ』『如是我聞』の草稿と共に津島家から日本近代文学館に寄贈された。完成原稿と同じ用紙で、ノンブルも一致することから、最終稿執筆の過程で生じた草稿であることがわかる。また、裏側を構想メモとして用い、それを参照しながら執筆を進めていた形跡がある。
 草稿の分布は五、六、七章、特に直治の遺書に集中しているが、一部、伊豆で書かれた一、二章も混在している。
 草稿と該当部分の完成原稿は『全集13』(99・5)に翻刻されているので参照されたい。
 『斜陽』の草稿はこのほかにも若干数が各地に存在している。また、構想を記した「『斜陽』手帖」(昭和二十二年版鎌倉文庫『文庫手帖』)が青森県近代文学館に収蔵されており、『全集13』(99・5)に翻刻されている。
(安藤宏)