解題 【原稿】
昭和23年3月7日(あるいは10日)から31日まで熱海の宿(咲見町林ケ久保起雲閣別館)で「第一の手記」と「第二の手記」の合計206枚を執筆、次に4月2日~28日に三鷹市下連雀の仕事部屋で「第三の手記」の「一」102枚を執筆、さらに4月29日~5月10日に大宮市大門町の下宿で「第三の手記」の「二」92枚と「あとがき」12枚を執筆した(山内祥史「解題」(『全集第九巻』90・10)参照)。
『全集13』(98・5)に、原稿の抹消跡も含めた翻刻が掲載されているので参照されたい。また、全原稿がカラー印刷されたものに『集英社新書ヴィジュアル版 直筆で読む「人間失格」』(08・11、集英社)がある。
【草稿】
美知子夫人が保管していたもので、平成10年5月に公開され、同年7月号の「新潮(太宰治没後五十年)」特集号に紹介された。同年10月、『斜陽』『グッド・バイ』『如是我聞』の草稿と共に津島家から日本近代文学館に寄贈された。
完成原稿と同じ用紙であること、ノンブルが完成原稿のそれと一致していることから、完成稿を書き継ぐ過程で派生した草稿であることがわかる。このうち65枚が熱海、42枚が三鷹、48枚が大宮執筆分に該当(ノンブル不明を除く)するので、異なる時期に3カ所で書かれたはずの原稿がほぼ等分に存在していることになる。
裏にメモの書き込まれているものが21枚、表の余白にメモの書き込まれているものが11枚あり、小説の構想にかかわる重要な内容を含んでいることから、作者自身が草稿の何枚かを手許に置き、構想の書き込みに用いていたものと考えられる。
なお、『グッド・バイ』(草稿)に、『人間失格』(草稿)に該当するものが2枚入っているので合わせて参照されたい。『グッド・バイ』草稿の画像5と画像7がそれで、ノンブルはないが『人間失格』350に該当するものと、『人間失格』のノンブル365の草稿である。また、『人間失格』(草稿)のノンブル363のウラ(画像152)にも『グッド・バイ』の下書きが記されており、この2作品の草稿が互いに密接な関係にあった事情をうかがわせる。
この草稿は翻刻が『全集13』(98・5)に掲載されているので参照されたい。(安藤宏)
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