解題 『二十世紀旗手』(「改造」昭12・1)に「七唱 わが日わが夢/―東京帝国大学内部、秘中の秘。―/(内容三十枚。全文省略
」という一節のあることから、これに該当する原稿であると考えられていたが(『全集第10巻』(昭52・2)に初めて収録)、美知子夫人は『回想の太宰治』において、この草稿は雑誌「奥の奥」の注文に応じて執筆された別稿(雑誌には不掲載)であるとし、以後、『二十世紀旗手』とは別の未定稿として扱われるようになった。『全集13』(98・5)に抹消跡も含めた翻刻が掲載されている。
美知子夫人は前掲書において、次のような考察を加えている。
ABC三片に分れている。ABC同じところに保管されていて没後同時にとり出されて、同じ題目のもとに、原稿用紙につけた番号順に収載されたもので、同じころの執筆と思われる。
Aは原稿用紙の五行目の中ほどまで書いてあとは空白だから反古
とみなされる。
Bは原稿用紙二十枚目から二十三枚目まで。
Cは三十五枚目から五十四枚目までで二十枚。
書体から推察すると、BCはつづいていたのが、その中間と書き出しの部分が失われたもののようである。
Cの最後の「啾啾のしのび泣きの声」は五十四枚目の最後の枡までうめて書かれていて句読点がついていないので、次の五十五枚目以下に続いていたこと、従ってこの原稿が五十五枚(四百字詰なら二十八枚)以上在ったことが推定できる。
このうちAおよびCのノンブル52~54のみ、同一のペンながらより薄い色が用いられており、書かれた時期の相違を感じさせる。また、ノンブル44欄外メモには昭和11年7月11日の『晩年』出版記念会に関するものと思われるメモが記されていることから、執筆時期は同年夏から初秋にかけてのことと推定される。なお、ノンブル20のウラに全集に翻刻されていない書き込みがある。
この未定稿とは別系統の6枚の断片の存在することも明らかになっており、『全集13』(98・5)に翻刻されているので参照されたい。本原稿をさらに書き換えた別稿と推定される。(安藤宏)
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