◆書誌解題◆
55 細胞文芸 創刊号
書誌情報
「細胞文芸」第1巻第1号 発行:昭和3年5月1日 編集兼発行人:弘前市富田新町57藤田方 津島修治 発行所:弘前市富新町57藤田方 細胞文芸社 4, 114頁 223mm
解題
 「細胞文芸」は旧制弘前高校在学時、太宰が個人で編集、発行していた活版同人誌。高等学校2年次に4号(昭3・9)まで発行されて廃刊となった。現在2号(昭3・6)が散逸しており、現存する1・3・4号のうち、1号と3号が「太宰治文庫」に収蔵されている。なお、このうち創刊号は「名著初版本復刻 太宰治文学館」刊行時の付録として、1992年6月に日本近代文学館から復刻された。
 太宰が執筆したのは「長篇小説無間奈落」(署名「辻島衆二」)、「編集後記」(署名「辻島」)の2編(いずれも全集に既収録)。同人欄には富田弘宗・辻島衆二・三浦充美の3名の名がある。夢川利一は、当時太宰に多大の芸術的影響を与えたと言われる三兄津島圭治の筆名。このほか太田誥一、北村小松、八木隆一郎は太宰が原稿料を出して依頼したと言われる中央の新進作家である。太宰の「無間奈落」は生家の退廃を階級的な観点から告発した本格的な自伝小説だが、続編を載せた2号をもって中絶したという。家長の地位にあった長兄文治の圧力によるものといわれている。2号は「罵倒号」という特集を組み、中央文壇からの寄稿も多く、反響があったと言われているが、「無間奈落」続編の内容と合わせ、散逸していて未確認であることが惜しまれる。なお、刊行の状況などを知る回想に、三浦正次「太宰治と細胞文芸」(「太宰治全集第十二巻月報12」昭和31・9)などがある。(安藤宏)